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千字小説 リロ

 お前と出会った日のこといまだによく覚えてる。
 まん丸い黒い目が果たして俺をちゃんと映していたかは謎だ。お前はよく分からん風に眩しい世界でごにょごにょ動いてた。毛も生え揃わずに、これで生きていけるのかと思った。
 お前は昔からよく食うヤツだった。食っても食っても満足しないんで、胃に穴が開いているんじゃないかと心配したくらいだ。
 りろろろろ! 鈴を鳴らすような甘え声でねだるから、リロになったんだぞ。知らなかったろ。
 よく食って寝て、それから俺によく懐いた。
 お陰様で寝不足になったが、りろろ、と呼ばれると俺、うたた寝から醒めてご飯をあげたくなっちまうんだから、ほんと参るよ。
 見る間にお前は成長し、美しい青い羽根を艶めかせた。
 この頃は一日中、羽ばたきの練習ばかりして飛び上がってはぼてっと落ちるもんだから、これはこれで骨折するんじゃないかと心配だった。
 まん丸い目くりくりさせて、お前は何にでも興味を持った。お前、二歳までの間に一番好きだったもの覚えてるか。毎日のご飯を除けば、綿棒だ。なんでか知らんがお前、綿棒が大好きだったんだよ。
 飛べるようになったと思えば今度は鳴き始めた。りろろ、じゃなくてもっとキーとかチーとか騒ぎ始めた。起きている間中のべつ幕なし叫んでるから、それはそれで病気かと思って心配したぞ。医者に笑われたけどな。
 それから今度は恋の季節だ。覚えてんのか、やたらめったら発情しやがって。あの頃お前が熱心に口説いたあれ、今だから言うけど、俺の指な。足の親指です。あんまり発情さすと身体に悪いというので親指は隠して歩いた。まったくお前は。
 大人になって落ち着いたお前は今度は妙にツンツンしやがって、俺が触ろうとしたら突くわ噛むわで、大変だった。お前はいつだって大変なヤツだったよ。なんてヤツだ。
 でも何が大変ってお前、今が一番大変よ。さっきから俺、涙ぼろっぼろ、止まんねえから。鼻水、ずるんずるんだからこれ。どうしてくれんの、俺もう三十路のおっさんよ。泣かすなよ、バカ。
 セキセイが十年なら寿命ですね、だってよ。
 なあリロ、お前俺といて楽しかったかな。高級フードも無農薬の小松菜もあげられなくてごめん。おもちゃ、安いやつばっかでごめん。特別なことは何もしてやれなくて、ほんとごめんな。なのにお前、毎日俺のこと笑わせてくれて、楽しませてくれて、本当にありがとう。
 十年分、ありがとう、リロ。お前のこと、一生大好きだよ。


(了)

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