しらべてあげる
あまおう まあお とは?
あまおう まあお は日本一不憫な自称作家である。
・あんた、まあおの何なのさ
「え、あまおう まあお? なにそれ食いもん? あまおうってたしかあれでしょ、いちごでしょ?
違うんだ、へえー。つかなんだっけもっかい言って?
超発音しづらくね? あまおうまあおあまおうまあおあまあ……ちょ、なにこれ、すげえ難しいんですけどー! ウケるー!
つうかさ、まあおって猫の鳴き声っぽくね? まあお、まーお、まーあおぉ……
で、なんであんたまあおってひとのこと訊いてくんの?(十六歳・女性)」
「ああ、まあおかい。あの子、かわいそうな子でさァ。なんでも、作家を志したのは中坊の頃って話サ。まあそれくらいのトシの子にはありがちなことだよ。別段、珍しいってこともない。だけどさァ、それをそのまま、大人ンなっても言い続けてるってのはちょっと、珍しいじゃないさね。
才能? 笑わせるねェ、あんた。そんなのあの子にゃもともとないんだよ。あったらとっくに本の一冊も出してるだろ。それがあのトシになって、分かんないもんなんだね。不憫ったらあ、ないよ。
え? あの子のトシかい? さあねえ、正確なこたあ訊いたことないから知らないけどさ、アタシと同じ昭和のにおいのするやつさね。時代遅れの、しみったれたにおいがね(六十八歳・女性)」
「その人の話はちょっと……あ、いえ。別に個人的なおつきあいがあるというわけではないです。誤解しないでください。
いや、嫌いっていうんじゃないんですよ。ただなんかイタいなって。
こないだもオレんとこ来てなんとかいう賞の最終選考残ったんだー、って小躍りしてました。
取らぬ狸のなんとやらってやつですよね。ちゃんと賞貰ってから言えって言ったのに、前祝いだとか言って強引に。ちょっとああいうひとはあんまり見たことないですね。
図々しいかと思えば酔っぱらって泣き出すし。
せっかく最終選考なのに誰も注目してくれないって泣いてんですよ?
オレからしたら、当然なんですけどね。
え? その後どうしたかって? そんなの、鬱陶しいから店の外にポイですよ。
……いやいやいや、オレは冷たくないです。っていうかなんなんですか、あなた、あんな自称作家に何か借りでもあるんですか(三十四歳・男性)」
「ああ、まあおちゃん! 知ってる知ってる、僕すごい知ってるその人。
へ? 別にいいんじゃないの、そこらへんは。作家って警察とかと違って詐称したら犯罪になるようなもんじゃないよね? 国家資格があるわけでもないんだし、いいんじゃないの、名乗りたいなら名乗らせてあげれば。
ううーん。タイプでは……ない……な、まったく。
金持ってないから。
あのひとほんとしみったれてるんだよお、ほんと信じられないくらい! あれで大卒って言うんだから笑っちゃうよね、明らか僕の方が金持ってるもん!
ええとなんだっけ? まあおちゃんがどういう人間か?
難しいなあ、それ。一言では言えないよお。
あっ、でもモテないのは確かだね。え? ええー。やだよそんなの。
僕、お金持ってない人とは付き合わないって決めてるから。(二十六歳・男性)」
「あまおうさんですか。知ってますね、残念ながら。
あ、友達ではないです。決してそんなことは。
それについてはノーコメントでもいいですかね。…………。いや、実は私も作家を目指してて……はい、まあ。
才能ですか? それは絶対、私の方があると思いますけど。
ううーん、まあでも、あのひと結構しぶといです。
上手い下手の問題でもなく、いくら落選しても批判されてもヘコたれてないのは、そこだけは見習おうって思いますけど。
え? 酒場でクダ? うっわー、あのひとそういう人なんだ。
世の中が悪いとか言い出したらクリエイターっておしまいですよね、はっきり言って。
まあ基本的には得なんてひとつもないんですけど、自分よりダメな人が目のつくところであっぷあっぷしてるの見てると安心するし、それにもし何かの奇跡が起きて、あまおうさんが作家にでもなったらコネにくらいはなりますからね。
あ、最初に言いましたよね。友達ではないので。決して。(二十九歳・女性)」
「遠路はるばるようお越しで。いやいやそう言わずにね、コーヒー出しますから、ね?
そうそうハンドドリップ。豆も手挽きしたやつ。ほーら、ね。飲みたくなってんじゃん。
こう見えて昔、純喫茶でバイトしてたから。
ああ職歴? すごいよ? 平気で十社とか行ってるから。もうね、履歴書の職歴埋まっちゃってますからー! 残念っ!
いやまあそれは……色々ありますしおすし。
ああ! 小説ですね? そりゃあもう数限りなく。ライトなやつから割と純なやつまで、エロからエロの欠片もないものまでありとあらゆる……え? いやまあ、それはまあそうなんですけど。
っていうかなんですかあなたここに何しに? ああ、迷い込んだ? なるほどそれは縁ですね! きっとあなた前世で私の付き人だったんだ。もうしょうがないですよ、ね、ファンになっちゃいましょう! ……どうしても? 絶対に? え、泣くほど……
わかりましたよ、わかりました。
じゃああれだ、友だ……えっ、ちょちょ、早まらないで早まらないで!
でもあなた気づいてないかもしれませんけどね、もう原稿用紙五枚分くらい読んじゃってますよ。
すごいじゃないですか! あなた、まあおの文章読める人なんじゃないですか!
いやいやなかなかいないから、こんなにスラスラ読めちゃう人。
だからね、ものは試しだ、とりあえずそこの作品集からひとつ、気になるやつとか読んじゃってくださいよ。
タダなんだから、あなたに何にもリスクないですよ。ね、だからね、お願い……お願いしますよお……頼むからあ……ね、絶対なんかの縁なんですぅ……もうほんとここ滅多に人来ないからあなたが帰っちゃったら私、干からびて死んじゃいますよ?
後生だから、ね? ねったらねったら、ね?(まあお)」