まあるい土産もの(受賞作)

 時々なのだが、父が土産を持って帰ることがあった。
 なんの記念日でもなく、給料日とも関係のない平日に、予告もなく。必ずいつも駅前のミスドのドーナツだった。

 父が手に提げたドーナツの箱を見つけると母は決まって「あっ」という顔をした後、困ったように薄い唇を曲げて「いやね、ご飯前なのに」なんて言うのだが、私たち子どもは大はしゃぎで、どの味が誰のだ、なんてさっそく分配をはじめてしまう。
 それにつられて結局「ちょっと、フレンチクルーラーはお母さんのよ」と口を出す母を見て、父は太い眉毛をぺたんと寝かせて、妙にほっとしたような顔をしていた。

 ドーナツでいっぱいの箱の中に、私の好きなココナツチョコや妹の好物のハニーチュロは入っていないこともあったが、母のフレンチクルーラーだけは欠かしたことがなかった。
 右端に二つ入ったそれはだいたいいつも、一つは母に一つは父に分配された。たまには母が二つ食べることもあった。

 夕食の前に突発的に始まる謎のミスドタイム。
 わいわい言いながら我先にと手を伸ばすドーナツの箱は、いつだって一瞬で空っぽになった。

 ずいぶん後になって知ったことだが、あれは父なりの「ごめんね」だったらしい。
 母によると、前日の夜か朝に大喧嘩をした日には必ず、父がミスドの箱を持って帰るのだという。

 それを聞いて大人になった私は笑ってしまった。
 そう言えば父は、母に対しても私たちに対しても、ごめんと謝った記憶がない。
 あんがい昔かたぎな男のプライドは、甘くて丸いドーナツによって守られていたのか。

 ありがとう、ミスド。
 おかげさまでうちの父は去年なんとか定年まで勤めあげました。
 これからは日中もうちにいる父が、毎日ミスドへ走ることにならなきゃいいけど。

【「ミスドの思いド」特賞受賞】選んでいただいて、ありがとうございました!(まあお)

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(了)